旬の特集:「米沢牛」米沢牛を育てる

米沢牛を育てる
今回訪れたのは、米沢市で酪農農家を営んでいる伊藤精司さんの牛舎です。伊藤さんは父親から酪農を引継ぎ、現在は息子さんと二人で米沢牛を育てています。
牛は約100頭。これでも多いほうだよ。
父親の代から引き継いで約30年くらいになるという伊藤さん。「父の頃は乳牛を育てていた。昔は肉牛を育てるのは無かった仕事だったよ。肉牛としては近々30〜40年くらいからだね。」肉牛として始めた当初は、15、6頭ほどだった牛たちも、現在では約100頭います。「息子がいるから、私は牛が多いほうだよ。」
日本の酪農農家は、500頭くらい保有するのが一般的だそう。しかしここ米沢牛の産地は100頭の保有でも多いとされます。それは「稲作もやってるからね。牛のえさにも利用しています。」それに少ないほうが丹念に育てられるというわけです。
肉用牛振興部会長をされている伊藤精司さん。
4月はお忙しい時期でしたが、快く取材を受けていただきました。
酪農農家は、子牛を生む繁殖農家と、その子牛を引き取り育てていく肥育農家に分かれています。肥育農家である伊藤さんが子牛を生むとなると、どうしても手間がかかり回転率が低くなるとのこと。しかし最近では、トレーサビリティ法や米国牛肉輸入ストップが影響して和牛の値が上昇。それに伴い子牛の価格も高騰しているそうです。そこで伊藤さんの牛舎では昨年から繁殖も行うようになり、子牛から出荷直前までの一貫した生産を目指しています。
毎朝昼、そして夜と牛たちの“顔色”を見に来ます
米沢牛は黒毛和牛であり、もちろん体の色は黒。そんな牛たちに“顔色”があるのでしょうか。「牛たちの健康状態は顔を見ればすぐにわかりますよ。」と伊藤さんは誇らしげに言う。「もう少し詳しく言うと、ヒトで言う顔色は牛の鼻を見ればわかります。」牛の鼻は常に湿っていて、調子が悪いと乾いてきます。伊藤さんは毎日牛舎に訪れては、我が子を見るように1頭1頭の顔を見て回るそうです。
以前は出荷のとき、かなり辛い思いをしたと言います。「2年間育ててきた牛だからね・・・」言葉に詰まる様子に、伊藤さんの思いが感じられました。「でも今は美味しいお肉に育ってくれ、という思いで頑張って育てていますよ。」
さらに「食べ物をつくる農家はみんな同じだろうけど、食べてもらって『美味しかった』という声を聞けることが最近は一番嬉しい。」と笑顔で伊藤さんは話してくれました。
ブラッシングは重要な作業。これをすることで脂が平に乗るようになる。
慣れないと牛は嫌がってしまう。おとなしいのは、丁寧に仕事している証拠なのでしょう。
美味しいと言われる由縁
米沢牛の美味しさの秘密を聞いてみたところ、「もちろん与えるエサの影響もあるけど、この米沢の気候、風土だな。」という返事が返ってきました。エサや育て方に特別な秘密があると思いきや、これは意外。気候や風土によって美味しくなるとは、米沢が牛を育てるのに最も適した環境だと言えるからなのでしょうか。「いえ、その逆です。人間にとって米沢は厳しい環境であるように、牛にとっても厳しいことに違いはありません。夏は暑く、冬は寒い。それが米沢牛の美味しさの秘訣です。」


ご覧のとおり牛舎の後ろには見事な自然美。これが最高級の米沢牛を生み出している秘訣です。もう4月だというのに雪も見えます。
どういうことでしょうか?
「杉で例えると、暖かい地域は木の年輪も大きくなり、すぐに成長します。逆に寒い地域では年輪は小さく背も低くなります。これは牛も同じことなんです。」つまり、牛にとって住みやすい環境であれば大きく、早く成長します。逆に米沢のように住みにくい環境では牛は小さく、成長も遅くなります。しかしその結果、「小さく細やかな肉質となり、美味しい肉牛へと育てられていく」というわけなんです。実際、取材した4月でも米沢には多くの雪が残り、気温も低め。人間と同じく、牛もこの環境に耐えながら成長しているのですね。その頑張った分だけ美味しくなっているんです。
米沢牛のお肉の特徴
とにかく一般の牛肉と違うのが脂質。ギトギト感がなく、くどくない脂は甘味があって、ほどよいコクがあります。霜降り牛のなかでも最高級を誇る肉は、この脂に秘密があるようです。さらに一般的な牛より成長が遅いため、長く飼うことになり、その分肉質の味も違ってきます。米沢の気候と、生産者の丁寧な仕事がつくり出す最高級の牛肉。皆さんはどのように食しますか?
伊藤さんに一番美味しい食べ方は?と聞くと「私はやっぱりすき焼きが一番。」
今よりももっと米沢牛の底上げを
立派な牛たちはさすが米沢牛。素人目から見てもその牛が高級であることが感じられます。
「米沢牛をこれまで以上に全国的なブランドにしたいですね。さらにどこの米沢牛の肉を食べても美味しいと言われるようにしていきたい。これからは全体的な底上げを図っていきます。」肉用牛振興部の会長をされている伊藤さんは、米沢牛全体についても気を配っています。研修会なども行っているようです。